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2022.07 米子沢(巻機山)

2022.7. 米子沢(巻機山)

 

日程:2022730日~31

集合:越後湯沢駅(西口) 7/30 8:10

 

メンバー:水上、森川、今村、大野、赤星

集合:越後湯沢駅(西口) 7/30 8:10

行程:

7/30 越後湯沢駅8:15→(タクシー)→9:00巻機山登山口(桜坂第3駐車場)~9:10最後の堰堤(入渓)~10:55ナメ沢出合~11:45栂ノ沢出合~14:50ゴルジュ入り口~16:30ゴルジュ出口7m滝右岸高巻き~17:30右岸尾根1470m地点(ビバーク) 

7/31 ビバーク地点(1470m地点)6:0011:20右岸尾根(1550m地点)~12:00西側尾根との出合(1650m地点草原地帯)13:0014:00一般登山道との出合付近(1750m地点)~14:05一般登山道8合目14:3017:30巻機山登山口(桜坂第1駐車場)→(タクシー)18:15越後湯沢駅(西口)

 

7/30

 越後湯沢駅は朝からアウトドアっぽい格好で溢れているが、その多くは苗場で開催中のフジロックフェスで熱く盛り上がろうという人達のようだ。天気予報は快晴、気温は35度にも達しようかという絶好の沢日和で、少数派の沢屋達の気分も負けじと大いに盛り上がるのだった。タクシー2台に分乗して約30分で巻機山登山口の桜坂駐車場に到着。米子沢へ入るには最も手前の第3駐車場で下りるのが便利だ。駐車場の東側から伸びている車道を辿って入渓地点へ向かう。10分ほどで「←米子沢入口」と書かれた小さな看板があり、背丈の高い雑草の生い茂る小道を下りていくと入渓予定地点の「最後の堰堤」が姿を現した。灼熱の太陽の下、水の無い沢を遡上すること10分、爽やかなせせらぎと共に涼しい谷の風が流れ、ついに目の前を念願の水流が走り出した。沢装備を装着し本当の意味での入渓。火照った体を冷ましたいだけでなく、とことん透明な清水の流れを前にすると、自然に足が水の中に誘われる。小滝や小さなナメ床の流れが連続。ひたすら水流に逆らってジャブジャブ歩く。体力は消耗するのだろうが、気分は高揚しペースも上がる。

 ナメ沢との出合では右岸から3段40m大滝を高巻く。踏み跡は明確でピンクテープも付けられており問題無く通過。その後の10m滝は左岸側をロープを出して遡上。ほぼ予定通りの時間で栂ノ沢との出合に到着。ここからゴルジュ入り口までは数多くの5m10m級の滝へ透明な清流が流れ込んでは落下していく涼しげな景観の連続。17mの大滝が轟音と共に激しく落ち込み、豪快に水しぶきを噴き上げる壮観。酷暑を忘れ、贅沢な水の風景を堪能しながらの遡行を楽しむ。ゴルジュ入り口までは傾斜は緩いものの長いナメ床や想定よりも水量の多い滝が多く、時間より安全を優先し、都度ロープを出しながら慎重に通過したことで、日影沢との出合を越えゴルジュ入り口には計画より2時間程度遅れての到着となった。ゴルジュ帯に入ってすぐの多段の滝を難なく越え、続く5mの滝はロープを出して左岸側から巻く。ゴルジュ帯の崖が高く、滝を巻き終えたがそのまま沢へ降りられない為、そのまま左岸を更に少し高巻こうとしたが、厳しい藪漕ぎで行く手を遮られる。四方を探りなんとか突破を試みるも前進を断念し、5m滝の高巻きを終えた元の場所へ引き返す。途中で見つけた進路のペンキ矢印に従ってゴルジュ帯に戻り、そこからはロープを出して崖沿いをトラバースし沢へ復帰する。多段の滝をいくつか通過してゴルジュ帯出口手前の7m滝に到達した時点で時刻は16:30になっており、日の入り時間の18:50を考慮すると先をかなり急がなければならない時間帯に差し掛かっていた。しかし、目の前の7m滝は水量が多く取り付きが厳しいと判断、またその後にすぐ20m15mの大滝が続きそれぞれ高巻が必要なことから、7m滝からその後の2つの大滝まで全てを一気に右岸から高巻いて大ナメ帯の下部に出る方針とした。

 右岸は取り付きからすぐに笹藪で粘土質の険しい崖でかなり滑りやすく高巻きは難航。藪の中で何とかロープを出し、肩絡みで引き揚げをサポートするが、全員が急崖の粘土質帯を突破するのに1時間を要した。その先も笹やハイマツその他雑木が密に絡まる厳しい藪に行く手を遮られ、当初の方針にそって大ナメ帯下部まで高巻くには日没時間を考慮すると困難であり、またここまでの崖と藪の突破で体力も消耗していることから、まだ日のある17:30にビバークを決断。地形図上で現在地に近く比較的傾斜の緩やかな場所(1470m地点)を特定し目指すが、目の前は常に笹と雑木に覆われており、どこからどう進んで良いのか分からない。枝が幾重にも重なる下を匍匐前進し、時には樹木の上を乗り越え、笹や枝を掻き分け、手や足そして顔など体中に枝や笹が刺さりながらも、なんとか明るい内に目的地点に到着。比較的緩やかとは言え藪の斜面に、まずはメンバーそれぞれが何とか今晩の寝床になるツエルトを張り終えた。その後はお楽しみの宴会。どんな場所でどんな状況でもこれは大事。山中の為に火は使わないことにし、お湯無しでそのまま食べられるものを肴に、持ち寄ったビールやワインを存分に楽しんだ。計画通りに行かず険しい場所でのビバークとなったが、フジロックフェスに負けない熱くエキサイティングな一日に大いに盛り上がった。

 

7/31

 急斜面で滑り落ちないように、木にセルフビレイを取りながらのビバークであった。こんな場所でも熟睡出来た人、相変わらず一睡も出来なかった人、色んな人がいたが5:00起床6:00出発。天候は晴れているものの樹木と藪に覆われており薄暗い。気温は高めで蒸し暑いが、直射日光が無いことが有難い。前日来た方向に戻り米子沢の大ナメ帯下部を目指すか、このまま尾根を登り一般登山道へのエスケープを目指すかを検討した結果、後者を選択することとした。戻るにしてもまた強烈な藪を潜り抜けることになること、更に危険な笹薮と粘土質の急崖をトラバースしていく可能性があること、一方で尾根を登れば地形図上では高低差+280mと移動距離500mで急崖も無く比較的安全に一般登山道に抜けられ、行程を短縮出来ると思われることから、メンバーの疲労度なども考慮して判断した。しかし、厳しい藪漕ぎは覚悟しなければならなかった。

 覚悟していたとは言え、ここまで凄まじい藪は経験したことがない。笹に加えシャクナゲが繁茂しているエリアは更に前進が困難になった。無数の笹や枝が網の目のように絡み合い、前後左右、上も下も縦横無尽に広がって覆い被さってくる。自分の周りに全く空間が無い。藪を掻き分け、枯れ枝を折り、何とか自分の体をねじ込むスペースを作る。体を入れるがザックが引っ掛かる。狭いスペースでザックを下す。ザックだけ先に隙間を通し、そこに自分の体を地面に摺りつけながら潜り抜ける。地面にスペースがなければ枝の上に乗り掛かり、枝から枝へ藪に顔を引っ掻かれながら飛び移る。一歩、一歩、それでも前に進む。ここからはもうどうにも動けないと思った瞬間が何度も何度も繰り返される。その度に立ち止まる。何度も深呼吸し呼吸を整える。気持ちも整える。ここまで来てもう戻れないよ。戻っても藪漕ぎは同じだよ。じゃあ前に進むしかないね。そんな問答を自分の中で何度繰り返したことか。

 標高1550m地点で新たな選択肢を検討するチャンスが訪れた。痩せ尾根で東側の眺望が開け眼下に米子沢の長い流れが一望でき、前方に大ナメ帯が確認できた。地形図で確認すると現在地から直線距離で約200m、同じ標高を維持しながらトラバースすることで大ナメ帯下部に到達する。目標地点は目視出来て明確。問題は崖と崖に挟まれた狭い急斜面を高度を維持しながらトラバースするという難易度が高い動きが出来るかどうか。チャレンジしてみよう。辿るべき等高線に沿ってコンパスを45°にセットしトラバースを開始。その瞬間、それが極めて危険で困難なチャレンジだと理解した。笹の急斜面で足が滑り全く安定しない。体を静止して高度を維持するだけで精一杯。下手に動くとあっという間に滑落してしまいそうで、このチャレンジは直ぐに諦め引き返すことにした。やはり藪の尾根を登り続けるしかない。

 次の目標は高度を100m上げた標高1650m地点で、地形図上の広い平坦地。地図記号の植生も変わるので、この藪地獄から解放されるのではないかとの一縷の望みを抱き、再び気持ちを前に向ける。朝から絶え間なく繰り返してきた藪との格闘を再開する。標高を上げるに従って藪の高さも低くなりほんの僅かながら抵抗が減ってきた。長い付き合いになった笹やシャクナゲだがとても好きにはなれない。それでもあしらい方に慣れてきたせいか心なしペースが上がる。目の前が藪の網に閉ざされても、もう迷いなくとにかく前進する。一種の悟りの境地。無数に突き出す笹や枝に胸を突かれ、腕を突かれ、足を突かれ、顔を突かれても、怯むことなく強引に突き進む。最後の急登を登っては滑りながらも、藪にしがみつきなんとか登りきる。目の前の藪の海が突然消滅し一気に開け広大な空間に変わり、青い大空に覆われた緑の大草原と黄色いお花畑が出現した。高原の涼しい風が汗だくの体を心地よく吹き抜ける。何度も大きく深呼吸して、ザックをおろす。手足を一杯に広げ緑のベッドにドサッと倒れ込むように横になる。青い空に白い雲が流れる。裸足になり目を閉じてしばし時間を忘れての休息。

 ここからは次の目標地点で一般登山道との出合に近い標高1750mの平坦地まで見通せる。これまでより傾斜は緩やかになりしばらく草原が続く。途中、笹藪も広がるが背が低く、これまでの長い悪戦苦闘とは比較にならないほど優しい藪漕ぎ。疲労は相当溜まっているが、一歩一歩、笹や草を掻き分けてゆっくり登る。高度差100mを1時間ほどで登り切り1750m地点の草原地帯に到着。そこから50mほど優しい草の平坦地を北へ歩き、ついに一般登山道の8合目に合流した。時刻は14:00。朝6:00にビバーク地を出発して水平距離で約500m、高度で約280mを移動するのに8時間を要した凄まじい藪漕ぎがようやく終わった。

 沢装備を解除し、疲労の中でケガをしないように集中力を維持しながら、コースタイム以上をかけてゆっくりと17:30に下山した。先行して下山したメンバーが冷たい飲み物を用意してくれていた。乾ききった全身の細胞全体に水分が染み込み、心身ともに生き返る。タクシーは巻機山登山口の第1駐車場で待っていてくれており、全員ケガもなく無事で長い一日を終え、越後湯沢駅へ向かった。越後湯沢では東口からほど近い商店街にある「江神温泉共同浴場」で、体中の切り傷、打撲痕や虫刺され痕をお互いに驚きと共に確認し、熱いお湯にしみる傷口を我慢しながら、泥と汗を洗い流した。反省会は同じ商店街の「菊新」というへぎそば屋で生ビールをがぶ飲み。美しい米子沢を思い出しながら、いい気分でこの2日間の山行を締めくくった。(赤星)